銃を手にして隊士たちが、前に駆け足、後ろ駆け足、伏せ、前に駆け足、銃構えなどなど、
号令に合わせて体を動かしている。

そんな中に、敬里も紛れて訓練を続けているみたいだった。


「遅くなりました」


声をかけて、一礼すると私もその輪の中へと合流する。

単純そうに見えて、体力をかなり消費するこの訓練は、
その後も暫く続いた。

伏せから立ち上がって前に駆け足、伏せから立ち上がって銃の構えなど、
足腰に負担がかかりそうな号令が繰り返し続けられると、
倒れたまま体をすぐに起こせない隊士たちもいる。


「立て、走れー、かけあーし。かけあーし」


訓練を監督しているらしいお偉いさんたちは、
そんな隊士たちにはお構いなしで、口だけ号令を出し続けながら
何かをひそひそと会話している姿が視線に入る。


「あと少しだ。頑張れ」


敬里はそんな動けなくなりそうな隊士たちに、
声をかけながら自らも気力を振り絞って号令についていく。

ようやく、「休め」の号令がかかると隊士たちは、
地面に倒れこむように休憩ほ取り始めた。



私も同じように地面に倒れこんで呼吸を整える。


その夜、出陣前の景気づけなのか、
お酒がふるまわれたり、先ほど炊事場で支度されていた、
きのこ雑炊が皆に振舞われた。


花桜は、おむすびを隊士たちに振舞いながら、
忙しそうにしてる。



「花桜」

「あっ、舞・敬里」

「あぁ、腹減ったぁー。
 花桜、おにぎり俺にもくれよ」

そう言って敬里は、花桜がもつ籠からおにぎりを掴むと
その場で食べ始める。


「もう、敬里何やってんのよ。
 舞もどうぞ」

敬里には文句を言う花桜も、
私には優しくおにぎりを差し出してくれる。


「有難う」

「明日、二人はどうするの?
 斎藤さんが隊長として、新選組は母成峠に迎うんでしょ」

「うん。
 私も敬里も行くよ。

 花桜は?」

「私は、ここ福良で土方さんと行動するよ。

 動けるようになったって言っても、
 土方さん、まだ無理はして欲しくないからさ」
 
「そっかぁー。
 じゃ、お互い無事で……だね」

「うん。
 また……生きて会おうね。
 
 私、残りのおにぎり、土方さんに持って行かなきゃ。
 届けなきゃ、あの人、食べることも忘れて考え込むんだから」


花桜はそう言いながら、
慌てて土方さんがいるらしい場所へと駆け出した。