ねぇ、鴨ちゃん……。
鴨ちゃんは私の戦の背中を押してくれますか?




「……わかった……。

 だけど、その前に花桜のお祖父さまとも連絡をとっていいかな?」



何度かの深呼吸をした後に私がゆっくりと告げると、
ママは何事なのかしら?って言う不思議そうな顔を見せたけど、
パパは頷いてくれた。


その日、私は学校に欠席の電話をパパにして貰って、
パパとママと三人で、山波家へとお邪魔した。


朝のお祖父さまとの電話で、
総司も敬里として通う学校に欠席連絡を入れたようで、
私たち家族をお祖父さまと一緒に迎え入れてくれた。



「いらっしゃい、瑠花さん。
 ようこそ、お越しくださいました岩倉ご夫妻。

 どうぞ、中へお入りください」


お祖父さんが出迎えてくれた先、
案内された場所は秘密のある鏡の部屋。


鏡は銃撃戦を繰り返す映像を流し続けていて、
私は慌てて、その鏡の方へと駆け寄った。


「どうなってるの?
 花桜は?」

「山波まだ土方さんの傍だよ」


さらりと呟く総司。


「瑠花さん、敬里、敬丞、三人もこちらへ」


そう言って、お祖父さまに呼ばれた私たちは、
お祖母様がお茶を用意してくれたテーブルへと着座した。


「さぁ、瑠花さん。
 戦の舞台は整いましたよ。

 その前に、覚悟を決めましょうか?
 奥で、紅を指してあげましょう」


お祖母さまの一言で私は、
その場から奥の部屋へと移動する。


両合わせの貝殻の中に閉じ込められた紅を、
水を含ませて筆でゆっくりと溶いて唇へとのせていく。


赤い紅をした私が鏡に映ったとき、
幕末での私の罪の数々が蘇るとともに、
覚悟を自分自身に言い聞かせる。
  


「瑠花さん、覚悟はさだまりましたか?」


そう問いかける、
お祖母さまの言葉に私はゆっくりと頷いた。


「お祖母さま、鏡に触れても宜しいですか?」


そう言うと、今も幕末風景を映し出し続ける家宝の鏡を、
私の手へと握らせてくれた。

ゆっくりと立ち上がって、再び隣の部屋へと移動して
自分の席へと着座する。


気が付くと久しぶりの花桜の両親も揃っていた。


「ご無沙汰しています。
 おじさま、おばさま」

「瑠花ちゃんには、いつも花桜が迷惑ばかりかけるね」

そんな風に、おじさんは私に言葉を返す。