宇都宮で負傷した土方さんと私が今市宿を出発して、
最初に経由したのは田島陣屋。

田島陣屋で秋月さんと別れて、
その後は、彼が手配してくれた若松七日町の清水屋旅館を目指した。

土方さんの熱は移動中もなかなか下がる気配がなくて、
それでも気丈に振る舞いを続けるその姿に胸が締め付けられる思いがした。

道中、私の視界に入ってくる景色は、
度重なる徴兵に疲弊している町民たち。

そして新政府軍の拠点確保を阻止するために、
戦略の犠牲となって焼き払われた村。


多分……この新緑溢れる土地を見ても、
美しいと思う余裕すらない程に、
人は疲れ果てているように思えた。


そんな景色を見送りながら山道を歩き続けて私たちは、
木造三階建ての建物へと辿り着いた。


私たちが姿を見せると、
すぐに宿の主人が出てきて建物の中へと誘った。


土方さんが休みやすいようにすでに寝床が用意されていた。


負傷した土方さんをずっと支えてきた仲間が、
布団へと彼を横たえて、一礼して一つ手前の部屋へと下がった。


「明朝、松本先生がこちらに顔を出してくださる予定です。
 それでは、何かございましたらお申し付けください」

「早速ですが桶に水をはって手ぬぐいをお貸しいただけませんか?」



宿の主人に頼むと彼女は納得したように頷いて、
ゆっくりとお辞儀をして退室していく。



「山波……」


額から冷や汗を流しながら私を呼ぶ土方さん。


「気が付きましたか?
 今、秋月さんが手配してくれた清水屋旅館の一室で休んでいます」

「清水屋旅館?」

「はいっ。
 会津藩の方々も良く利用される格式高い宿泊施設のようです。
 木造三階建ての立派な建物ですよ」


そういって、わざと私は土方さんにとってのどうでもいい情報を織り交ぜて会話する。