「土方さん、本陣の中に、舞の声が聞こえました。
いっても宜しいですか?」
「あぁ、行ってこい」
正式に許可を貰った私は二人にお辞儀をすると、
その場を離れて、先ほどの声がした方へと向かった。
「あれっ、舞っ」
見慣れた背中に向かって、親友の名前を紡ぎだす。
「花桜っ」
舞もまたすぐに私に気が付いて、駆け寄ってくると私たちは暫くの間抱き合った。
「無事でよかった……舞」
「花桜こそ。無事でよかった。
敬里も、無事よ。随分疲れてるみたいだけど……」
「そうだよねー。
私たちと違って、敬里はまだこの世界に来て日が浅いもの」
「それより花桜。土方さんの傷の具合は?」
「土方さん、足を負傷しているの。
だから戦闘を離脱して、もうすぐ会津へと移動することが決まってる」
「そう。花桜も行くの?」
「私もそのつもり。
舞も一緒に行く?」
私の申し出に、舞はゆっくりと首をふった。
「ねぇ、花桜。斎藤さんは来てる?」
舞の問いかけには、今度は私が首をふった。
「そっか……。だったら、私はなおさら行けないよ。
この場所で、斉藤さんを待ってる」
「うん。
じゃ、舞と会うのは会津で……だね」
「会津で……。
あっ、ごめん。医療道具余ってない?
負傷兵の手当だけしたくて」
舞の言葉に、私は負傷兵たちを視界にいれて「それを早く言いなさいよ」っと小さく呟き、
すぐに処置室として使っている部屋へと向かう。
そこから薬と包帯を抱えて戻ってくると、舞の前へと差し出した。
「出発までもう少し時間あるから、私も手伝うよ。
一人より、二人の方がいいでしょう」
近くにいた隊士に声をかけて、桶に水を汲んで持ってこさせると、
私は舞と共に負傷者の手当を始めていく。
そして負傷兵たちの治療の後、馬鹿、敬里の姿を見つけた。
「花桜、無事だったのかぁー」
そうやって、明るい口調で何時もみたいに話しかけてくるアイツの顔は、
疲れ切っているのか疲労度が濃い。
そして肩の負傷を見つける。
「って、そう言うアンタは何、怪我してるのよ。
まっ、アンタの傷は軽そうだから、後でねー」
敬里の傷が心配なわけじゃないけど、
今は敬里よりも重傷者が多い。
そうやって、舞と敬里がここに連れてきた負傷兵たちの手当に明け暮れている間に、
私は土方さんと共に会津へと出発する刻限が近づいてきた。
「山波隊士、土方参謀の出発の時間が近づいてきました」
「花桜、気を付けて」
「花桜、気をつけろよ」
迎えの隊士が私を呼んだのと、舞と敬里が私に話しかけたのはほぼ同時。
「有難う。
舞も敬里も、気を付けて。
会津で土方さんと待ってるから。
そして、ちゃんと皆で瑠花が待つ私たちの時代に戻るんだからね」
そうして私たちは、束の間の時間を共有した。
だけどこの時の私は、敬里との別れが近づいていることなんて気が付きもしなかった。
翌朝、私たちは本陣を後にして、会津へと移動した。
この後の戦いの激しさなんて、知る由もないままに……。