土方さんの伝言を中島さんに伝えると、
彼はすぐに本陣を離れて、尋ね人の元へと急いでくれた。



明け方、出発時間が迫る中、中島さんがその人を連れて本陣へと戻ってきた。



「土方さんっ、起きてください。
 勇太郎さまがお見えですよ」


眠っている傍で声をかけると、
土方さんは、求めに応じるようにゆっくりと体を動かし始める。



「勇太郎は?」

「こちらに通すことは出来ないと思いましたので、
 この屋敷の方が、用意してくださった一室へとお通ししました」

「そうか」


そう言うと土方さんはゆっくりと立ち上がって、
負傷した足を庇いながら、壁づたいにその部屋へと少しずつ歩いていく。


そんな彼を支えながら部屋まで案内すると、
入室した途端に、お互いの無事を確かめ合う様に、無言で抱き合った二人。


そんな沈黙の時間が流れた後、勇太郎さんは私へと視線を移した。


「歳……、こちらの女性は?」

「お前が思っているような関係じゃねぇよ。
 大切な仲間の血縁者。まぁ、今の俺にとっては大切な仲間ってやつだ」


そう言って土方さんは私を説明する。


「新選組隊士、山波花桜と申します」

「やまなみかお……。

 君は他流試合を申し込んできた、小野派一刀流免許皆伝。北辰一刀流門下、山南敬助殿の関係者でしょうか?
 彼なら……歳と共に行動していてもおかしくない」


勇太郎さんの言葉は、私はただ頷くしかなかった。
血縁は血縁だけど、遠い未来の住人だなんて、簡単に説明できない。


「それでは、ごゆっくり。
 少し失礼して、お飲みものの支度をしてまいります」


そう言って私は退席した。 


突然、紡がれた山南さんの名前。
びっくりしたけど、ちゃんと山南さんが誰かの心の中にも棲みついているのがわかって嬉しさも覚える。


お茶を支度しに向かう途中、私は懐かしい声が響いているのに気が付く。

すぐにでも駆け付けたい気持ちをグッと堪えて炊事場へ行くと、
二人分のお茶を用意して、私は二人が待つ部屋へと急いだ。



襖に手をかけて声をかけようとしたとき、
中から二人が話す言葉が聞こえた。




『勇太郎に頼みがある。
 今度は帰れそうにないからな……』


そんな切り出し方で、土方さんが勇太郎さんに頼んだのは、
宇都宮城の戦で敵前逃亡をしていた味方隊士たちを切り殺したという話。


指揮を高めるためとはいえ、味方兵士を殺してしまった土方さんは、
殺してしまった隊士たちの供養を頼みたかったらしい。


思わぬ会話に私は……新たな土方さんの優しさに触れた気がした。


その後、普通の障りのない会話になったところで、
私は息を整えて、中の二人へと声をかけた。



「失礼しました。山波です。お茶をお持ちしました」

「あぁ、入れ」


土方さんの声をきいて、今度こそ襖を開けて中の部屋へと入る。




「勇太郎、さっきの話だが、こいつを使ってくれ」


そう言って、懐から、汚れた巾着袋を取り出して勇太郎さんに手渡した。


「確かに……」


そう言って、勇太郎さんはそれを懐奥深くへとしまい込んでいく。