宇都宮での戦は一時、優勢になったものの次から次へと集結してきた
新政府軍の猛攻に、私たちは撤退を余儀なくされた。


「退却っ!!
 怪我したものは先に下がれ。
 
 鉄砲隊、撃ち方用意。
 俺たちが時間を稼ぐ。加賀、敬里と共に負傷兵を撤退させろ」


戦地の中、響く斎藤さんの声。
撃ち込まれていく大砲の衝撃音。

銃声音が轟く中、斉藤さんはゆっくりと鞘から愛刀を解き放ち、
数人の味方を連れてその場から離れていく。


煙の中に消えていく斎藤さんたちの姿。
そんな斎藤さんの姿を、ただ立ち尽くすように見つめていた。


「舞、こいつら連れてくんだろ。
 ほらっ、しっかりしろって」


肩を揺すられて、ふと我にかえった私の前には敬里の姿がある。



「敬里……」

「お前、ずっとあんな風に……斉藤さんを戦地へ送り出してきたのかよ」



そう言って小さく呟いた敬里は、固く唇を噛みしめながら、斉藤さんたちが消えた方角を凝視した。
そんな一瞬の表情を見せた後、敬里は再び、私の方へと振り返る。



「舞、さて。俺たちも行きますか」


そう言って敬里は、負傷している隊士たちに肩を貸しながら、ゆっくりと立ち上がらせる。



「いいかっ。
 俺たちは何が何でも生きて、仲間たちと合流しないといけない。
 斎藤さんたちが敵を引き付けてくれている間に味方のところへ向かうぞ」


敬里の声に、負傷兵たちはお互いに頷きあう。


「んで、舞。
 何処に向かえばいい?」


敬里の言葉に私は、昔の記憶を思い出す。



ねぇ、舞ちゃん……私たちが向かうべき場所は何処?
祈るような気持ちで、瞼を閉じて心の中に問いかける。


ゆっくりと脳裏に広がっていくのは、道を示しているのだろうか?
見慣れない風景写真が広がっていく。


だけどそれは前世の舞ちゃんが辿った道程なのか……、
私の中に、あたたかく広がっていく。


見知らぬ景色なのに、どこか見知ったような錯覚。



瞼を開ける瞬間、「今市」の地名を紡ぐ声と土方さんの姿がうつる。