幕末で出逢った憧れた存在。
憧れと現実は違っていて、恐怖すら感じた時間もあった。
だけど……鴨ちゃんたちとの時間を通して、私の中で少しずつ、憧れでも何でもない、
本当の総司の姿が焼き付いていった。
そして何時しか惹かれて、一緒に居るのが暖かくなった。
この人を守りたい。助けたい。
こんなにも愛した人は初めてだもの。
だからこそ……総司にも今を受け入れて欲しい。
前を向いて歩き出してほしい。
そんな風に思うのは……間違ってるのかな?
制御することの出来ない涙が、じんわりと溢れ出しては頬を伝って畳の上に染みを作って行く。
「瑠花、心配かけてごめん」
そう言って突然、口を開いた総司は、着物の袂から手拭いを取り出して、
私の涙をぬぐいながら静かに紡いだ。
「瑠花、後少し。今はもう少しだけ時間が欲しいんだ。
入院中、瑠花が持ってきてくれた書物を読んで、僕はこの世界に伝わる僕の最期を知った。
本の中の僕は労咳で体を患い、近藤さんの死を知る機会はなかった。
近藤さんの旅立ちの数日後には、僕もこの命を落としてる。
だけど今の僕は、瑠花がこの世界へと連れてきてくれたから、別の名前を得て、
労咳の治療を終えて命を繋ぐことが出来た。
それは、瑠花にも感謝してる。
瑠花は僕の知らない世界を、僕に見せてくれた。
だからこそ、今の僕は、あの頃には想像もしなかった近藤さんと向き合うことが出来るんだ。
近藤さんを助けたい。
叶うなら、今捕らわれている板橋へと駆けつけて助け出したい。
だけどそれは叶わない。
でも、今の僕が一つだけ出来ることがあるんだ。
山波のように……近藤さんの生き様を、この目で見届けることは出来る。
山波って……何でアンナに強くいられるんだろうねー。
心ではわかっていても、今の僕は……手の微かな震えが止まらないんだ。
山南さんの介錯をこの手でした時、僕は無意識のうちに僕自身から意識を切り離していた。
失敗なんてして、山南さんを苦しめたくない一心で。
だけどその分、反動は大きく肉体へと影響した。
瑠花にも沢山、助けられたね。
だからこそ……あの時みたいに、間違えずに僕自身のケジメを付けたいだけなんだ」
総司が呟いた瞬間、鏡は……隊士たちの手当を続ける花桜たちの映像から別の場所へと切り替わる。
それは牢の中で、静かに最期の瞬間を待ち続ける近藤さんの姿だった。
「近藤さんっ!!」
突然映し出した映像に、戸惑う様に、声を少し上ずらせながらも、
総司は正座のまま、もっと鏡に近づくようににじりよる。



