宇都宮城の戦と後に言われるようになった戦いを、
鏡は静かに映し出し続ける。


銃と銃を互いに構えあう兵士たち。
刀と刀がぶつかり合ってた時代も、緊張は走ってた。
だけど今は互いに見合うと息をのむ暇もなく銃を撃ち合ってる感覚。

残酷の時間を鏡は、無音のまま無情に映し出していく。


傷を負って倒れるもの。
何発もその身に受けて、崩れ落ちる体。

周囲を包み込む煙。


その場にいないので匂うはずもないのに、
火薬の匂いまで何処からかしてきそうなほどの錯覚すら覚える。


そんな戦いを映し出し続ける鏡を、今も総司は、正座を崩そうともせずに食い入るように見つめ続けていた。


総司が待ち続けているのは近藤さんを映し出してくれる瞬間。
目を見開き唇を噛みしめながら、ただまっすぐに鏡を凝視し続ける。



「総司……、少し気分転換しない?
 この世界に来てから、総司の世界はずっと病院の中で、小さな隔離された病室の中だけだった。

 そんな総司に、この世界の事。新選組がどんなふうに伝わってるかを知って欲しくて、
 私は本を何冊も病室に届けた。

 だけど……この世界は狭くない。
 総司の世界も狭くないんだよ。

 この世界のことを総司に知ってほしい。それは私のエゴだって知ってる。
 押し付けるのはダメだって、ずっと自分に言い聞かせてきた。

 だけど総司は……ずっとこの家の中に閉じこもって、外に行こうとしない。
 幕末にタイムスリップしたばかりの私と一緒。

 タイムスリップって言うのは、時代を超えて行き来したことね。
 私が幕末の総司たちの時代に来たのも、総司が私たちの時代に来たのもタイムスリップ。

 んん……違う。
 そんなことが言いたかったんじゃない。

 私は……怖いの。総司が近藤さんと一緒に消えてしまいそうで……。
 総司のこの世界の名前は山波敬里で、沖田総司じゃないの。

 総司は、山波敬里としてはこの世界で生を許されるけど、
 沖田総司としては存在していない。

 歴史は沖田総司を消してしまうんじゃないかって……不安なの」


困らせたいわけじゃない。
だけど一人、抱え続ける不安は収まる気配もなく……私のキャパシティーを超えるように広がっていく。


だけど……そんなこと、総司に言いたかったわけじゃない。

総司は、今、私の前に居る。此処に居る。
この世界の誰もが信じてくれなくても、私は、この人だが沖田総司だって知ってる。

でも自分でもどう制御していいのかわからない不安が常に押し寄せ続ける。


花桜の居ない学校で、この体験を知らないクラスメートの前で言っても、
誰にも信じて貰えない、そんなウソのような私にとっての現実。

理屈では知ってる。

だけど……私は、総司と一緒にこの世界で生きていたいの。