声をかけると、会話の邪魔をしてしまいそうで……
そっと、部屋の中に、おにぎりを残して静かに部屋を後にした。




その後、自室に戻って準備をするのは、必ず出てしまうであろう負傷兵たちの手当に備えて、
さらしを準備したり、生薬をすりつぶしたり……。


それが今の私が出来る精いっぱい。

だけど……それは、私が出来る大切なもので、
それを教えてくださった人への恩に報いることもあると信じているから。



翌日、土方さんたちは陣から出立していった。



時折の、監察方の一人が状況報告へと私の場所へと戻ってきてくれる。



「山波さん、土方参謀からの報告を伝えます」


そう言って戦況を教えてくれては、また戦地へと向かっていく。

こうやって、京で過ごしていた時も、丞は何度も何度も、陣への報告と戦地を往復しながら、
私の相手をしていてくれたんだなーなんて、思い返してしまう。



「いつもお疲れ様です」


 
彦根藩襲撃から始まって梁瀬橋から予定通りの進軍をはじめた土方さんたちは、
桑名藩兵や新選組隊士たち、そして伝習隊歩兵第一大隊、砲兵隊、回転隊と駆使して、
からめてに攻撃し、宇都宮城を攻めていると伝えられた。

大手門は堅固のため、雑木林や竹藪などの土塁を使いながらさらに進軍。


その激しい戦の中で、戦意を喪失して逃げようとする味方兵をも、
土方さんは斬り捨てた。


そして場内は、煙で視界が遮られて火の海状態。

敵兵が火をつけて逃亡し、
土方さんたちも、一度こちらの陣に引き上げてくる旨の報告だった。




帰ってくる隊士たちお世話の準備に忙しくなるのを感じながら、
私は受け入れ態勢を整える。


負傷兵の手当。食事の用意。
相変わらず、やるべきことは同じだけど大切なことだ。



その夜、宇都宮城の火の手から逃げ戻った先方隊の皆の働きをねぎらう様に、
気を配り続けた。


土方さんに預かった文も、まだ到着していない大鳥さんに渡すことも出来ず、
そのまま土方さんへと戻すことになる。


翌日、ようやく到着した大鳥さんの部隊、そして永倉さんたちがいる後方部隊も到着し、
宇都宮城下の鎮火が確認されたことにより、場内へと足を踏み入れる。


焼きつくし炭化した木が転がる城下が先の戦のすさまじさを物語る。
そんな中、焼け残った建物を本陣として、大鳥さんたちが城内へと陣を構えた。



それでも戦は終わる気配がない。

土方さんたちが城内で休息をとっていた間に行われることになった壬生城攻略。
新政府軍との岩井の戦いでは回天隊長を含み130名の隊士が死亡する負け戦となった。



そんな報告が届くたびに、土方さんが思い詰めていく表情が気になる。
そしてそんな時、私たちの元に懐かしい名前が告げられた。