そして駒を、さっきの動かし方とは別の順番で動かしていく。
それは……暫くの沈黙の間、続いた。



「山波、視えてきたぞ。
 これで……どんな形でなっても対抗できる」

「よかった……」

「山波、大鳥さんがこちらに進軍しているはずだ。

 俺たちは明日、この陣より城攻めに入るが、
 山波にはこの場所で、負傷兵の手当と、大鳥さんへのこの書の伝令役、
 そして……腹を空かせてるやつらに、美味い飯を食わせてやってくれ」


そう言うと、土方さんは、文机で書き留めていた手紙を私へと手渡した。



両手でその手紙を受け取ると私はその手紙を懐へときっちりとおさめて、
お寺の炊事場を借りて、なけなしの食糧で食事を作り始める。




どんな状況下でも、今の私には、私が出来る役割を見つけることが出来る。



井上さんが食事の作り方を沢山教えてくれたから、
慣れない文明の利器のない炊事場でも、今は迷いなく食事を作ることが出来る。



そんな私を発見するたびに、私の中で今も力強く井上さんが生きているのだと
感じることが出来る。



だからこそ……土方さんにも、一人じゃないのだと気が付いてほしい。


そう思ったのは、私のエゴ。

疑心暗鬼になりかけているかも知れない心を、
騙すような言葉かも知れない。



だけどそんな言葉が、弱っている心を過ごしてくれる場合もある。



離れていても、舞の……瑠花の…そして丞の声が、山南さんの声が私を支えてくれるから。





炊事場でひたすら、おむすびを握り続ける私のところには、
今も京で暮らしていた時のように、手伝ってくれる隊士たちが集まってくれる。





「はいっ、お待たせしました。
 おにぎり、出来ましたよー。

 皆さん、明日に備えて食べてくださいねー」




そう言って、隊士たちを奮い立たすように明るく振舞い続け、
その一部は、きっちりと土方さんの元へも届ける。




土方さんは近藤さんの羽織の一部を取り出して、
文机の上に置いて静かに戦の前夜を過ごしていた。