結核の入院治療を無事に終えて退院した総司は、
山波敬里として山波家で本格的に生活を送っている。

かと言っても、二学期になってもまだ一度も、高校へは通っていない。


私はと言えば花桜の居ない学校で高校生活を日中は過ごし、
学校の授業が終わると、山波家の総司の元へ顔を出したり、
花桜のお祖父さまと一緒に山崎さんの元へと顔を出したりしながら、
日々を過ごしていた。



「ごきげんよう。瑠花さま」

「えぇ、ごきげんよう」


その日もクラスメイトと学校の校門前で別れると、
道すがらの和菓子屋さんで、みたらし団子を購入して、
私はバスに乗って総司の居る花桜の家へとまっすぐに向かった。


近藤さんが大久保大和として新政府軍に出頭したのが、
確か……二日前の夕方に鏡が映し出した出来事。


そしてその映像が映し出されて以来、今は別のことを映し出し続けていて、
近藤さんの時間が映し出されないでいた。


総司は退院して山波家で生活を始めるようになって以来、
洋服は着慣れないのか幕末で着慣れていた着物をお祖父さまから借りて、
着物と袴姿のまま、鏡の前に正座して時間を過ごしているみたいだった。



歴史を知識として知る私には、
この後に近藤さんの身に起こる出来事は、大久保大和としての近藤さんを通せなくなる、
新選組局長としての近藤さんを知る存在との対面。

そして……近藤さんの斬首に薩摩藩側は一応反対をしていたものの、坂本龍馬暗殺の首謀が新選組だと思っていた土佐藩が
近藤さんの斬首を押し切ったっと言うのが、私が知る知識。


っと言うことは、総司にとって近藤さんとの別れの時がすぐ間近まで迫っているのは確かなことで。



幕末時代。
向こうで生活をしていた総司は向こうの世界で結核の療養を続けていたから……、
そういった、近藤さんの「現実(いま)」を知ることなく、自分の生を全うしたはず。



だけど……今の総司は、離れた直接干渉することがない世界で、
別人としての新しい道を歩きながら、昔の自分としての時間と向き合わないといけない。


それは総司が私と出逢わなければ経験することのなかった時代で……。



今、離れているこの瞬間にも、総司が一人で近藤さんの死と向き合おうとしているなら、
私は少しでも早く傍で見守り支えたいって、そんな風に思うことしかできない。


そんな気持ちが私は総司の元へと毎日、向かわせていた。