「少しは私たちの苦労に気が付いた?
私たちも最初は、幕末の世界でそんな生活だったんだよ」
そう言って切り返しながら、あんなに苦しかった時代も、
今は懐かしさを感じている私自身に気が付く。
ふいに外からノック音が聞こえる。
「はい。どうぞ」
総司が返事をすると、外から扉が開いて、
白衣姿の見慣れた存在がゆっくりと入ってくる。
「パパ……」
私が呟くと、総司はゆっくりとお辞儀した。
「敬里君、良く今日まで治療を頑張ったね。
今日が退院だと知ってね、少しお邪魔してしまったよ。
瑠花は私に、何も話してくれなかったからね」
そう言って話を切り出すパパに、
私も「パパと……そ……、あっ敬里が面識あるって知らなかったもの」っと切り返した。
そうこうしている間に、お祖父さまも会計から戻ってきて姿を見せ、
主治医の先生や、担当の看護師さんたちも花束を持って姿を見せた。
「敬里君、退院おめでとう。
良く頑張ったわね」
「皆さん、孫がお世話になりました」
お祖父さんが挨拶すると、
総司も慌てて「有難うございました」とゆっくりとお辞儀をした。
そして皆に見送られるように、
隔離病棟前にある談話室から私たちは歩き出した。
エレベーターを降りて、病院の玄関から外に出ると、
頭上には見事な、秋晴れが広がっている。
「眩しい……」
そう言葉を零しながら、総司は大きく立ち止まって伸びをした。
「ホント、気持ちいいねー」
そう言って、私も総司と同じように伸びをする。
「この空は……あの空に続いているのかい?」
「えぇ。
多分、続いてる。
少なくとも、私はそう信じてるよ」
「そう……。
だったら僕も……信じるよ」
「さて敬里。
自宅に戻るぞー」
私たちはまたお祖父さんが手配したタクシーに乗り込んで、
花桜の家へと移動する。
「ここが山南さんの……」
タクシーを降りて、総司は感慨深そうに呟いた。
お祖父さんは、玄関のドアを開けて「今戻った」っと中へと入っていく。
すぐに玄関までお祖母さんの声が聞こえて、
やがて姿を見せた。
「お帰りなさい。
部屋は片付けてますよ。敬里」
そう言って、総司に声をかける。
そうやって総司を通す部屋は敬里が家族と住んでいた別棟ではなく、
本邸の一室だった。
そしてそこには、敬里としてクラス、総司の私物が支度されていた。
新しく誂えられた学校の制服まで。