「さっ、お祖父さん、瑠花さん。
二人は敬里のお迎えを……。
私は敬里の部屋を掃除しておきますよ」
そう言ってお祖母さんは私たちを玄関から送り出した。
家の外には、何時の間にか手配されていたタクシーが横付けされていた。
後部座席のドアが自動で開けられた車に、
促されるままに乗り込むと、静かにドアは閉められて車は通いなれた病院へと移動していく。
病院に到着するといつものように受付を済ませて、
総司がいる場所へと看護師さんに案内された。
「おぉ、敬里。
顔色もよぉーなって、元気そうじゃな」
お祖父さんが声をかけた総司は、
何時も見慣れた着物姿ではなくて、何時の間にか支度されていた洋服だった。
肩ほどまで伸びていた髪はショートレイヤーへと変化し、
ロング丈のカットソーに、さらりと羽織られたジャケット。
そして足元に合わせているのはチノパン。
私はあまりの不意打ちに言葉が思うように出なくて、
部屋の入り口で立ち尽くしてしまった。
「さて、敬里。わしは会計に行ってくるよ。
瑠花さん、暫く頼んだよ」
お祖父さんがそう言って部屋を出て行ったのと同時に、
総司が「瑠花、どうかな?」っと照れ臭そうに言葉を紡いだ。
「……似合ってる。
って言うか、びっくりした。
今日、総司のお洋服探しに行かなきゃって、
昨日、お年玉貯金してたから銀行でおろしてきたの。
でも……こんなにかっこいい姿見せられたら、
このまま総司を独り占めしたくなっちゃった」
そう言って総司に抱き着くと、総司もゆっくりと私に触れてくれた。
「こうやって瑠花を抱きしめるのも、久しぶりな気がするよ。
でも……こうして、もう一度瑠花に触れることが出来る。
本当にこの場所に来られて良かった。
敬里君だった?
僕の代わりに幕末に飛び立ってしまった、山波の従兄弟には悪いとは思ってる」
「そんな罪悪感、総司が持たなくていい。
私が勝手に総司を連れてきてしまったんだもの。
敬里のことはちゃんと考える」
「そうだね。
何が出来るかはわからないけど、僕たち二人で向き合っていく問題だね」
「うん。
総司がこれから飛び出す世界は、本当に何もかもが新しいものだらけでびっくりするよ」
「お金一つにしても違いすぎて、戸惑うばかりだったよ」っと、
総司は財布の中から、小銭入れや紙幣を見せた。