いい成績を残そうとも、いい大学から推薦が来ようとも、あたしにしてみれば全てどうでもいい事だった。
周りに『凄いね』と褒められることが何故か嫌いだった。
努力した分のこれまでの結果だし、女子のくせして男の泰知に勝ちたいっていう目標があったから。
あたしが陸上をする理由は、それだけだった。
泰知がいるから、走ってこれたんだ。
今年の夏は、インターハイに出て町の広報にも新聞にも載ったし、表彰台にも登ったけど、本当にどうでもよかった。
ただ、表彰台の高さが高くなる度に泰知に近づいてるって感じることが嬉しくて……。
もう、目指すものがないなら陸上はもしかしたら本当に要らないかもしれないって。
“今から、会えないか。”
「……わかった。あの、公園にいる。」
おう、と昇馬が答えてからあたしは電話切り、立ち上がる。
泰知から貰った手紙がある机の方を一度だけ見て、
何も無いけど『行ってきます』と声をかける。
これで、きっと陸上ともさよならだよ。
あたしは部屋の電気を消して部屋を出た。
「どこ行くんだ?」
一階の玄関前の廊下でお兄ちゃんとすれ違った。
「昇馬と、話つけてくる。」
「………9時には帰ってこいよ。母さんには言っとくから。」
『頑張れよ』と意味を理解したかのようにあたしの肩をポンとお兄ちゃんは叩いた。


