いちについて、




***



“もしもし。”


機械音で少し潰れたような昇馬の声が聞こえる。



「あのね、昇馬………。」




昇馬に、きっと最初に言わなきゃいけないこと。

本当は、会って昇馬に言うべきだけど、そこまでの勇気があたしには無かった。



言わなきゃいけないこと。

言うべきこと。



「やっぱり、陸上辞めたい。」




“………。”



電話の向こう、昇馬が何も言えずに、返事に迷っていることが昇馬の息遣いでよくわかる。



“………どうして。”



しばらく続いた沈黙のあと、昇馬はそう、振り絞るように言った。



「やっぱり、無理だよ。泰知が、陸上をする意味だった。あたし、これ以上何を目指して頑張ればいいのか、わかんない。」



“それでも……、お前は辞めたらダメだろ。泰知の思い、裏切んのかよ。”




「何、泰知の思いって。分かんないよ、もう泰知はいないのに。」



そう、泰知はもういないんだ。

これ以上陸上部にいる意味が、あたしにはない。