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“もしもし。”
機械音で少し潰れたような昇馬の声が聞こえる。
「あのね、昇馬………。」
昇馬に、きっと最初に言わなきゃいけないこと。
本当は、会って昇馬に言うべきだけど、そこまでの勇気があたしには無かった。
言わなきゃいけないこと。
言うべきこと。
「やっぱり、陸上辞めたい。」
“………。”
電話の向こう、昇馬が何も言えずに、返事に迷っていることが昇馬の息遣いでよくわかる。
“………どうして。”
しばらく続いた沈黙のあと、昇馬はそう、振り絞るように言った。
「やっぱり、無理だよ。泰知が、陸上をする意味だった。あたし、これ以上何を目指して頑張ればいいのか、わかんない。」
“それでも……、お前は辞めたらダメだろ。泰知の思い、裏切んのかよ。”
「何、泰知の思いって。分かんないよ、もう泰知はいないのに。」
そう、泰知はもういないんだ。
これ以上陸上部にいる意味が、あたしにはない。


