「これから俺ら、どうなんだろうな……。」
「どうって……」
「なんか結局さ、いつも見てんのは泰知の後ろ姿だったじゃん?俺なんか、走ってる時だってどんなに頑張っても必ずあいつの背中を拝むことになった。悔しかったけど、それで満足している自分がいたんだ。」
昇馬は、俯きがちに、自分のことを曝け出した。
昇馬はあまり、自分のことを言う人ではないのに。
やっぱりこれも泰知の力なのだと考えると、泰知の凄さと言うより、恐ろしさまで思い知る。
「こいつの背中が見えるところにいれば、俺は他の誰にも負けることはないって思ってた。どれだけ、あいつの背中に近いところにいれるだろうって、そればっかりいつの間にか考えるようになってた。お前だってそうだろ?知ってるよ、いつもちょっと後ろあるってる事。」
気づかれてたなんて、知らなかった。
第一、あたしが二人の少し後ろを歩くのは無意識だった。
ただ、いつの間にかそれは癖になり、二人のやり取りを少し後ろで聞くのが好きになっていた。
いつも、泰知の背中と昇馬の背中を見ていた。
今日、昇馬の少し後ろを歩いた時、なぜか寂しく感じたのはきっと、そこに泰知のものがなかったからなのだと今更気づく。
「泰知って、おっきいね。」
大きすぎて何よりも目立つ、だからこそ絶対に見失わない存在だった。
「もう、いないんだよな……。」
昇馬の言葉は風に乗ってどこかへきえる。


