“夕夏ぁ!!今どこいんのよ!!あと五分で出発なんだよ!!”
何も知らない楓から怒りの電話が届いたのは、外もすっかり明るくなった朝の七時半だった。
喋る気力もないあたしは、どうにか楓の怒りにうん、とだけ答える。
“うん、じゃなくて!昇馬も泰知も来ないしどういう事よ!!!”
やっぱり、昇馬も行かなかったんだ。
と言うより、行けないよね……。
そして、泰知が死んだってことをまだ楓達、陸上部員は知らないみたいだ。
“夕夏ぁ、どうかしたの?ねえ、なんか喋ってよ!!”
何も答えずにいると、さすがに心配した楓は口調を少し弱める。
「た、いち……が……」
“二宮ぁ!!”
あたしがやっと泰知という言葉を発するのと、前川先生が電話の向こうで楓を呼ぶのは同時だった。
“なんですか。…………え、……嘘………。”
楓の心情の変化が電話の向こう側なのにまるでわかった。
“……夕夏……、どういう事………。”
スマホの向こうの楓の声が震える。
“そういう……こと………。”


