いちについて、




「人混みの中に入ってったらさ……血だらけの泰知がいた……。」


昇馬は両手をギュッと握って拳を作る。

制服にシワができる音が聞こえる。


両手から顔を上げて隣を見ると、昇馬は俯いていて、その瞳から雫が落ちる。


あたしは、自分の涙で濡れた手で、昇馬の右手を包む。


昇馬が、涙を目にいっぱいにためた顔をこちらに向ける。


それが、切なくなって、止まったはずの涙がまた流れ落ちそうになってくるから、あたしは昇馬から顔を背けた。



「それで、病院に?」



顔を背けたまま昇馬に尋ねる。


昇馬は震える声であぁ、と続けた。



「誰かが救急車呼んだらしくて……付き添いが欲しいって言われて思わず乗り込んだ………けど、…だけど、死にかけてる泰知見て、頭がどんどんおかしくなってく気がして………気がついたら泰知のリュックは俺が持ってて、電話しなきゃって……。」


昇馬は苦しそうに、それでも言葉を続けた。



「最初に、泰知の母さんに電話して、お前にも電話しなきゃって………。だいぶ俺も理解できてきて、お前が泣いてるの見てても、ちゃんと支えてあげられるって思ってたのに………なんか、泰知って名前聞くだけで……やっぱ涙止まんねぇわ。」



「昇馬………。」


昇馬は、あたしが握っていない左手で目を覆う。


気づけば、あたしの涙もまた溢れてきていた。


昇馬と肩を並べて、ずっと、泣いていた。