泰知の周りを忙しく行ったり来たりしていた医師や看護師が動きを止めてもなお、あたしはその場から立ち上がれずに涙を流していた。
制服が涙で濡れてしまおうが、それが乾かなかったとしても、なんて考えなかった。
あたしには泰知を救う力も術もなく、ただ泣いて現実から目を背けることしか出来ない。
もう、自力では立ち上がることも出来ず、あたしは昇馬に支えてもらいながら、霊安室の前の椅子に腰掛けていた。
涙はまだ、流れてくるけれども、よほど落ち着いてきた頃に、あたしの携帯が振動した。
「出れる?」
バイブしているあたしの携帯に気づいた昇馬が、ブレザーのポケットを指さして言った。
あたしは黙って首を横に振る。
昇馬はあたしのポケットから携帯をするりと抜き出す。
それから通過ボタンを押し、スマホを耳に当てた。
「俺です、昇馬です。」
“あ、昇馬くん?”
お母さんの声が聞こえる。
出ををかけてきたのは、お母さんだったんだ。
どのくらいここにいるかわからないけれど、夜中なのに間違いはないし心配しているのは事実だと思う。
「はい、それで、泰知が……。はい、わかりました。待ってます。………そうです、はい。」
いくらか言葉を交わしてから、昇馬は通話を終了させた。


