あたしの家には自転車がない。
お兄ちゃんは持っていたけれど、大学への通学手段として、持っていってしまった。
あたし自身、自転車を乗ったのは中一の頃が最後なため、車庫には脇目もふらずに道路へと飛び出す。
緩やかな下り坂を一気に駆け下り、泰知と二時間前に別れた交差点を、泰知が消えた方向へと曲がる。
こんな夜中に、必死になって走っている制服姿の女子はとんでもなく目立っていた。
道行く人、みんなが振り返る。
そんなのは気にもならず、あたしは目的の場所へとひたすらに足を前に進ませる。
陸上部で良かったなと、こういう時に感じてしまう。
息が切れて焦れったい思いをすることなんてない。
走ればきっと、10分ほどの病院までの距離はなぜかいつもより長く感じた。
病院の駐車場を真横に横切り、夜間受付の方へ向かう。
そこで、携帯を握りしめている人の姿を見つける。
あたしは、走りながらも迷わずに名前を呼んだ。
「昇馬!!」
気づいて昇馬は顔を上げる。
彼もあたしと同じように、制服姿で、病院の外壁に体を持たせかけていた。
「夕夏。」
「………っはぁ、はぁ。っ……それで、どうしたの?」
昇馬の真正面まで辿り着き、膝に両手を当て、肩で呼吸を整えながら昇馬を見上げる。
「病院って、なにか、泰知に………。」
「あぁ。」


