「もしもし、泰知!」
“俺だ。”
電話の向こう側から聞こえる声は、機械を通しているとはいえ、明らかに泰知のものとは異なった。
一瞬、何があったのかわからず混乱したけど、その声は聞き慣れているもので、すぐに頭が現実に追いつく。
「昇馬……?」
“あぁ。”
なんとなく時計を振り返れば時刻は9時半。
大会に出る前の日は小学生並みに早く寝ているはずの昇馬が、まだ起きている。
なにか、胸騒ぎがした。
昇馬から電話がかかってきている事。
昇馬の携帯ではなく、泰知の携帯から電話がかかってきている事。
「どうしたの?」
心なしか、声が震えていた気がする。
スマホを持つ手が震えている気がする。
“山仲病院、今すぐ来て。”
「は?」
こんな時間に県立の病院に呼び出される理由が分からなかった。
“お願い、今すぐ…。”
「………わかった。」
電話を切ったばかりのスマホだけを持ち、あたしは制服のまま、部屋を飛び出した。
「え、夕夏、どこ行くの?」
丁度廊下に出てきた清夏と廊下前ですれ違う。
「病院。泰知になんかあったんだと思う。」
「泰知くん……??」
「昇馬もいるから、心配しないで。お母さんには言っといてちょうだい。早めに帰ってくるから。」
「えっ!!夕夏ぁ!!」
清夏が叫んだ声は無視して、あたしは走った。
走り出してから、ローファーに足を通した自分に後悔する。
つい、いつもの癖で朝はローファーで家を出てしまうため、ローファーを履いてきた。
でも、戻るという選択肢があたしにはなく、ただ病院を目指して走った。


