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県駅伝に向かう出発の前の日だった。
晴れ。視界は良好。
秋は深まり、周りは暖色色をした木々に囲まれる。
この季節が、あたしは好きだ。
冬に入るまでの短い期間、こうして少し寂しさを感じてしまうように錯覚するこの景色が好きだ。
部活が終わった7時にはすでに日は暮れ、あたりは闇に包まれ、紅葉はどこかへ姿を消してしまった。
「明日だね、出発。」
部室の前の段差に腰掛けてミネラルウォーターを飲んでいると、汗をお気に入りのデザインだと言っていたタオルで拭いながら、楓が隣に座った。
「頼むよ、一区。」
あたしは楓の肩を軽く叩く。
「その後、流れ作ってもらわなきゃ困るけどね。」
やり返すかのように楓はあたしの肩に手を置く。
スピードランナーのあたしと違って、長距離走が利く楓は6キロという長い道のりが続く一区に起用された。
楓の走りならきっと区間三位以内に帰ってくることは分かりきっている。
「あたし、4キロかー。不安しかないな。」
「あんだけ駅伝やりたいって言っときながら、3キロまでしか走ったことないんだもんね?」
本当にお前は長距離をしているのか、と言いたくなるくらいにあたしは長い距離をなかなか走らない。
と、言うより前川先生に走らせて貰えないんだけど……。
まあなんだかんだ言いつつ、あたしは二区である4キロを走ることとなった。
「あのコースだと14分くらいで走ってもらわないとあとが困るよ?」
「14分かー。きついなぁ。」
練習の段階で、15分をぎりぎり切るくらいだった。
もうあとは練習もないし、本番に託すしかない。
「でもやっと、駅伝出られるね。」
「そうだね、菜々子さんも補欠で行ってくれるし、力強い。」
今年の一年生は女子が五人も入部してれた。
うち、三人は長距離選手。
「せりかもいるし?」
楓はあたしに向かって微笑む。
「あんまり言わないでよ!!」
あたしが頬を膨らませると、楓はごめんごめんと両手を合わせた。


