ガチャ…と戸を開けて顔を出した泰知のお母さんはやはり頬がだいぶ痩せこけ、不健康そうに見える。
相当、苦労しているのは知っている。
泰知は上も下もいるあたしと違って一人っ子で、ましてやお父さんがいない。
一人になってしまった泰知のお母さんにもう頼れる人はいない。
唯一無二の存在を失ってしまった泰知のお母さんのその顔は痛々しい現状をあたし達に突きつけているように感じられた。
「あの、花をあげに来ました。」
虚ろな目をする泰知のお母さんに対し、普段は使わない敬語が出てしまう。
泰知のお母さんはゆっくりと頬をあげ、優しく微笑んだ。
「月命日にも来てくれるのはあなた達くらいだわ。本当にありがとうね。上がってって。」
乏しくなってしまったその表情とは裏腹に、優しい声と態度であたし達を家に入れてくれた。
居間へ通る途中、あたしも何度も入った部屋を通り抜ける。
生活感が所狭しと溢れ出ているその部屋には、泰知の暮らしたあとがしっかりと残っている。
玄関には泰知の靴だって置いてあった。
ハンガーにかけてあるウィンドブレーカー。
有名アスリートからのサイン色紙を片手に映る写真。
学習道具やリュックサックまでもがそこに泰知が存在しているかのように残されている。
その空間だけが、泰知がいた日で時間を止めているような錯覚に陥る。


