「でもさ、そろそろあたし3000mやりたいんだよね。」
「おー!一緒にやろうよ!」
乗り気なのは茉優だった。
「え、なに駅伝?」
そうです、と菜々子さんに向かって微笑むと、そうかぁと呟いた。
「今の三年生も短距離ばっかだしね〜。今年は駅伝は厳しいかぁ。」
そう。それが本当の問題。
「去年の山仲中惜しかったもんね。」
いつの間にか着替え終わっていた茉優があたしの肩を叩く。
それから、茉優は長い前髪を横に固定ピンでくるくるとねじってから留めた。
茉優は、ショートカットがすごく似合う。
あたしもショートにしたいけどな。
あの二人が似合わないって一度バカにされたことがあるから、それがちょっとしたトラウマでずっと長いままにしている。
「そうなんだよね、あと二秒って悔しい。」
去年の県駅伝。
あたし達、山仲中はあと二秒届かずに県駅伝敗退した。
「レベル高かったもんね、夕夏は新記録出してたのに。」
「あたしの話はあんまりいいから。」
入賞ラインである三位には二秒届かなかったけれど、あたしは個人の部では新コースとなってから12年ぶりに一区で新記録を出した。
「でもさ、夕夏の走りかっこよかった!茉優もあんなふうに走りたいなぁ。」
「あたしより、楓の方が走り方は………。」
「そろそろ始めるよ〜。」
言葉の途中で、外から声が聞こえた。
多分、部長の増田凪斗(ますだ なぎと)さん。
菜々子さんと同じクラスでハイジャンの選手。
「今行きま〜す。」
菜々子さんの間延びした返事の後、ドアに写った影はどこかへ消えた。


