二宮楓の走りは見ている人を魅了する。
中学の頃の顧問、松田先生がそう言っていたのを思い出した。
楓の走りは儚く散る花火のように美しく繊細で逞しく、勇ましい。
ただ、触ってしまえば、少しでもブレが生じてしまえばそれは一瞬でなくなってしまう。
芯の通った走りであるからこそ、あの走りは人々をいつも驚かせる。
あいつが持っているのは容姿じゃない。
確固たる『センス』だ。
楓には、陸上のセンスがある。
それは、いきなり始めた400mハードルの走りを見て誰もが思い知らしめられたはず。
あたしだって、その美しさに息を飲んだ。
これまで一度たりともハードルを飛んだことのない少女とは思えぬ足さばき。
頭の浮かない、軸にズレがないフォーム。
きっと、よんぱを続ければ全国大会でも競える選手になる、あたしはほぼ確信していた。
楓はタイムレースの三組目で圧倒的なレース展開を繰り広げていた。
第三コーナーに差し掛かり、彼女が二歩も三歩もリードしたその時。
────あれは、事故だった。


