「あれ、かえちゃんは?」
「あ、今日はリハビリって……。」
「そか、金曜日だもんね。あの子も大変よね〜。」
全身鏡に向かって日焼け止めを熱心に塗りながらも、菜々子さんはどこか母親のような目線で言葉を口にした。
そんな菜々子さんにそうですね、とだけ答えてあたしも自分の着替えを始めた。
三年生が引退して、楓もいない二人だけの部室はいつも以上に寂しさだけが漂っていた。
楓が先月に間違ってこぼした香水の残り香がまだ少し鼻腔をくすぐる。
それすらも、今は切なく感じる。
「かえちゃん、マネになるとか転部するとか言わないよね?」
「ないとは思いますよ。もしそうなら、リハビリも辞めてると思うし……。」
これは、誰に言った言葉なのか。
最後の方は声も小さくなってしまったため、もしかしたら菜々子さんはあたしの言葉すべてを聞き取れなかったかもしれない。
この前、楓が言っていた言葉をあたしはただ繰り返しただけだ。
『マネとか転部するなら、もうすでにリハビリ辞めてる。』って。
それは、菜々子さんに教えてあげたかった事実なのか。
それとも、自分に言い聞かせたかったのか。
もしかしたら、後の方かもしれない。
楓はやめないからっていう、確信が欲しかった。
嘘では、ないと思う。


