「お前、山仲の朝比奈だよな?」
突然に声をかけられ、俺は被っていたフードを剥ぎ取って顔を上げる。
突然、太陽が視界の隅に写ったことで、目がくらむ。
が、徐々に視界がはっきりしてくると同時に目の前にいる誰かに見覚えがあるような気がした。
「そうだけど。」
大会3日目。
思いのほか調子がよかった俺は、難なく800m決勝まで登りつめていた。
明日は3000障害がある。
あまり体力を浪費したくはないのだが、明日のレースまでに800mを3本も本気で走っていることになる。
そんなにタフじゃない俺にとっては十分なハードスケジュールだ。
俺の目の前に立ちはだかった背のすらっと高い美青年に俺は、何となく覚えがあったが、名前までは出てこなかった。
そんな俺の表情を読み取ったようで、俺が尋ねる前に相手が名乗った。
「藤村学園の野田晴久(のだ はるひさ)だけど。」
「あ、思い出した。」
思い出した。
泰知が後半のライバルてしていた相手の名前だった。
表彰台に登っていた姿に見覚えがあったのだ。


