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「テスト前にインハイ予選でほんと助かったよ。」
「ほんとにな。俺、まじで今回ピンチかも。」
前川先生お手製の今回の大会の冊子を眺めていれば、隣に座っている松田がまったく共感しか湧いてこない言葉を口にした。
「泰知っていう寝てるくせに天才な奴がいないもんだから俺は今回はやばいよ。」
松田と泰知は、大会の度に教科書を開いていた。
その光景は今でも脳裏にくっきりと映し出されるくらい、恒例のものだった。
「でもお前、理系だよな?泰知は文系だし、どうせ今年は教えてもらえなかっただろうね。」
「んなこと言うなって。じゃあ、昇馬が教えてくれるか?」
「俺の教え方で怒るなよ?」
「りょ〜。」
一番後の席のおかげで、一番前に備え付けられているデジタル時計の文字は全く見えない。
いつも付けている時計で時間を確認すれば10時より少し手前だった。
あと15分ほどで会場に着く。


