今日は奢りだと言い張る凪斗さんに、俺は一円を差し出すことすら許されなかった。
まあ、卒業して、凪斗さんは社会人という括りになったから高校生の俺が奢ってもらうっていうのにそこまで気は引けないけど、やはり先輩は先輩だ。
後で、なにかお返しくらいのことは考えておくとしよう。
店の外に出るともう空には満天の星。
ここが田舎町で良かったと思えるところだ。
街灯もそこそこにしかないし、夜は国道以外の車通りは少ない。
山にも海にも囲まれている。
こんな街で育ち、走っている自分はなんて幸せなんだろうかと、よく考える。
「じゃあな、昇馬。明日修了式なんだろ?休むなよ?」
「俺、健全だし優秀なんでそんなことしませんよ。」
「そうか?なら問題なしか。じゃあな。またいつか。」
自転車の俺に変わって、徒歩の凪斗さんはポケットに手を突っ込み早々に俺に背を向けた。
「あの!!」
そんな歩き出す直前に、呼び止める。
ゆっくりと振り返った凪斗さんはなんだ?と優しい顔をする。
「大学、どこ行くか聞いてないです。」
「ああ、言ってなかったな。慶名だよ。」
「慶名……。」
ハイジャンのオリンピック選手のコーチがいることで有名な大学の名前に俺は驚いた。
偏差値も並大抵のものではなく、志願倍率も見上げるほどに高い。
そこに合格するなんて、さすが俺らの先輩だ。


