凪斗さんの言葉を皮切りに、また涙が溢れてくる。
「本当に……すいません…でした。」
「もういいんだ。俺は、なにも後悔していないんだから。お前らに出会えて、一緒に走れて、一緒の時間が出来て良かったよ。」
懲りずに頭を下げる俺を、凪斗さんは優しく諭してくれる。
こんなに後輩思いな先輩が、他にどこにいると言えるだろうか。
増田凪斗という人物に出会えたことが、本当の喜びなのかもしれない。
そうだ、この人にキャプテンを押し付けられるように任されなければ、俺は陸上部という世界から消えていたのかもしれないから。
「ほら、これ使え。」
凪斗さんは二枚渡されたおしぼりのうち、使ってない方の一つを俺に手渡した。
それで涙を拭く。
凪斗さんは俺の涙が止まるまで、何も喋らずに黙っていた。
「帰るか。」
そう言い出した時には、入店した時から1時間半近く立っていた。


