それでもさすがに、五本となると体力の限界もあったようで、一本目のタイムとは20秒以上の差があった。
「今日が前川先生が来ない日でよかったな。」
お互い、マネージャーから渡されたスポーツドリンクを片手に部室棟前の石畳に腰掛ける部活終わり。
短距離やフィールドグループはまだなようで、陸上部らしい声がけはそこら辺から飛んでくる。
そして、凪斗さんの久しぶりの跳躍。
「凪斗さんも、相変わらずだよね。」
綺麗に弧を描くようにして、まるで絵に描いたような跳躍を凪斗さんが夕日に照らされながら魅せる。
その光景がまたなんとも言えないくらいに美しくて、言葉が出てこなかった。
凪斗さんはマットから飛び降りると、同じクラスでこちらもハイジャンの松田と、いくつか会話を交わして笑い合う。
「やっぱり、戻ってこれてよかったよ、あたし。」
目の前で繰り広げられている光景にマッチしたように、夕夏はそう呟いた。
「そうか。」
「ここが、あたしの居場所なんだね。」
「他に何があるか、俺には分からないくらいだな。」
夕夏がまた笑っている。
走っている自分を心から好き好んでいる時の顔。
たくさん悩んで、辛い思いをして、でも諦めないで戻ってこれてよかったと、俺は心から思う。
ここにいる。
ちゃんといる。
黒川夕夏が。


