その音に、夕夏は敏感に反応した。


それが俺の癖であることを、こいつはよく知っている。

重い責任を背負ってる時とか、悔しい時、ついついこういうことをしてしまう。


「ちゃんと、話してよ。」



夕夏の言葉に、俺は首を縦に振る。



そして一度深呼吸をしてから、再び口を開いた。



「秋季大会が終わったあたりから、あいつが右足のことよく庇ってるように見えて、でも普通に走ってるからなんの問題もないと思ってた。だけど、やっぱり走り終わったあとは右足をちょっとだけ痛そうに歩くんだよ。」



「うん………。」



「聞いたら、やっぱ右足がおかしいって。で、県駅伝の2週間前かな。病院に行かせたら、靭帯に傷がつき始めてるって。だけど、ここで辞めれねえ、県駅伝は走るっつって。それ終わったらどうなってもいいって言ったんだ。」



泰知らしい粋な考えが、あの時の俺にとって苦痛な事もあった。


大事なライバルがもうこの場を去ってしまうのかもしれないと思うと、本当は県駅伝出場も断念して治療に専念して、来年までにどうにかして欲しいって思っていた。



だけど、泰知は俺の考えにはうんとは頷かなかった。