ザザザ……と春直前の海は静かに音を立てる。


しばらくふたり何も喋らずに並んでいたけれど、俺は言わなければと勇気を振り絞り、夕夏に声をかける。




「あのさ、やっぱり夕夏に陸上に戻って欲しいんだよ。」



「………。」



夕夏は何も返事しない。



まるで、俺の次の言葉を待っているかのように。



そう、夕夏は待っているんだ、きっと。




俺がどうしてこんなにも夕夏が陸上部に戻ることを乞い願うのか。

その答えを。




「夕夏が陸上部にいることが泰知の最大の願いなんだよ。」



「どうして、泰知が?」



夕夏は訳の分からないと言った表情で俺を見上げる。