いちについて、




こういう時に限って帰り道はとても早く感じて、気づけば既に夕夏の家の前だった。



言おう言おうと思っていたことも、結局今日も言えずじまいだ。




「夕夏。」



こんなんじゃダメだ。


心より先に言葉が出た。



まだ、帰るな。



そう、呼び止めるように俺は夕夏の名前を呼んだ。


夕夏の家の中からなにか美味しそうな匂いがする。



「ん?なに?」



夕夏は首をこてんと傾けて俺を見る。

だいぶ長くなった髪がサラサラと肩から落ち、宙を舞う。



「明日。走ろう。」



「………でも、あたし」
「走ろう。」



俺は夕夏の言葉を遮り、二度言った。