「昇馬?」
「あ、………。」
「なにそんな思い詰めたような顔して。らしくないよ?」
立ち止まった俺の顔を下から覗き込まれる。
夕夏とはクラスが違うから、学校でもすれ違う程度だ。
だけど、幼なじみとしてなのか、陸上部の部長としてなのか、夕夏を前にすると知らずとなにか変わった感情が芽生える。
それを今は、名付けることができない。
ただ、言ってしまえばこれが焦燥というものか、というような感じだ。
「どうせまたあたしのことでしょ?心配しなくていいから。」
「心配しなかったら、お前が本当に陸上部を辞めちまうかもしれないだろ。」
「それは、そうかもね。」
最近、夕夏が前より笑えるようになったと思う。
前よりも、楽しそうに笑うことが増えた。
「でも多分、戻ると思う。いつになるか分かんないけど。」
「今、戻ってきて欲しいんだ。」
今じゃなきゃ、ダメなんだよ……。そう言うと、夕夏は困ったように眉尻を下げる。
「ゴメンね。」
いつもこうだ。
どうしたら、お前は陸上部に戻るのだろうか。
泰知、お前が勝手に死んでいったせいだろ。


