いちについて、




「なんで、泰知に勝てないのぉ〜〜!!!!なんで泰知のほうが速いの〜!!!もう、陸上やめるぅ!!」



周りに迷惑なくらいわんわん泣くあたしのことを嫌がりもせずに不器用ながらよしよしと頭を撫でる昇馬の手の温もりはあたしの涙をさらに誘う。



「だって、泰知も男の子だもん。いつかは夕夏より速くなっちゃうんだもん。しょうがないんだよ。」




「でも〜〜!!!!」



あまりにもあたしが泣くもんだから、勝ったばかりのときは鼻高々にあたしに自慢してきた泰知だったけど、いつの間にかあたしから離れたところで石ころを蹴飛ばしていた。



「俺、夕夏に勝っちゃダメなのかよ。」



わざと言ったのか、独り言にしては大きすぎるその声を、あたしは聞かなかったふりをしたんだ。



その大会で、あたしも泰知もそれぞれ優勝した。



小学五年生100mという種目だった。


昇馬は短い距離を全速力で走るあたし達とは違って、いつも1000mに出ていた。


あたしが大泣きしたその日、昇馬は僅かな差で二位だった。



悔しいのは昇馬のはずなのに、昇馬は涙を堪えてあたしの涙を拭ってくれた。



その分、あたしが昇馬の涙を流した。