しかしそれよりも、あたしはスタンドからあんなに声を張り上げて役員に注意されないか、そればかりが心配でならなかった。
スタンドからの声援は基本禁止だ。
応援する時は必ずバックストレートまで来るのに、今日は時間がなかったみたいだ。
まあ、男子の準決勝が終わってすぐだし。
あたしは笑顔で、泰知に向かって手を振り返した。
それから、スタート位置より数歩下がったところに立つ。
そう言えば、今日はテレビ中継がある日だった。
カメラは一度あたしたちの前を通り、それから一レーンの選手から順に映し出す。
「三レーン、黒川 夕夏さん。山仲高校。」
パチパチと拍手がそこら中から聞こえてくる。
片手をあげてからお辞儀をし、それから本部席に向かって一礼をする。
カメラの前だからといってなにも、気取ったようなことはしない。
いつも通り。
それが、ルーティンでもある。


