いちについて、




ここまで登りつめてくるには必要以上の努力が伴う。


あたしだって、身を粉にして踏ん張った日もある。



あと一秒、縮まなくて神経をすり減らしてタイムに気遣った日もある。



この努力が今は、無駄には出来ない。



今の調子なら、高校新記も間違いないと前川先生に言われたし、学校中のみんなにそれを期待されている。



もう、後戻りするわけにはいかないのだ。



スタート地点近くの控え場所で、ランニングシューズからスパイクに履き替える。



「準備出来たらレーンに入って流しを入れてください。」



指示通り、自分のレーンに入り、ゆっくりと助走して50mと少し、軽く走り抜ける。



「夕夏っ!!!!」



そこからスタート位置に戻る途中、聞きなれた声にあたしはスタンドを見上げる。



そこには、笑顔の泰知と前川先生の姿があった。



あんなに笑顔な泰知だからきっと、いいタイムが出たか、決勝出場が決まったかのどちらかだ。