冗談じゃなく、本気で勝負できる。
きっとこれ以上にいいライバルはいないだろうというくらいにいいライバルに、あたしは出会えたんだと思う。
光里も、あたしの走り方は嫌いだと前に大学の記録会で出会った時に言っていたことを覚えている。
それが逆にお互いのいい刺激になっていると言っても間違いはきっとない。
あたし達は、いいライバルなんだ。
自信を持って言えるし、光里がどう思ってるかはわからないけれどあたしはライバルなんだって言いきれる。
「こんな話したら弱いって思われるかもしれないけど、ちょっとだけ光里の話聞かない?」
「うん、いいけど。」
役員にゼッケンやナンバーカードを確認し、移動までもう少しというところで、光里は唐突に意外な事実を口にした。
「去年のインターハイ終わってから光里ね、怪我した、靭帯。」
「えっ………」
「だから前のシーズンはボロボロで、もう陸上辞めようと思った。だけどさ、インターハイ終わったあとの大学の記録会で夕夏に負けたじゃん?やめるなら夕夏に勝ててからじゃん?だからこうして、今も走ってんだよね。」
そう言って光里は履いていた部ジャージをめくる。
光里の左足首はピンクと水色のテーピングでしっかり固定されていた。
「気づかなかった、予選のときも、準決勝のときも。」
「だってそりゃ、どっちも光里は夕夏の後に走ったもん。夕夏、自分以外の走りは本当に興味ない人だから人の走り見ないもんねぇ?」
「うるさいって!」
笑いながら光里の肩を叩くけれど、うまく笑えていたかどうかわからない。


