いちについて、




そう言えば、光里はあの日も決勝まで残っていたんだ。


悔しくてたくさん泣いた記憶が蘇ってくる。



そしてまさか、今日も隣のレーンに並ぶとは。



あたしの方がインコースであるから、光里を気にしていたらきっと勝てるすべはない。



戦略なんてあたしにはない。


前川先生に言われたのは、『ペースを守れ。周りを気にしていたらお前は表彰台の1番上には昇れないぞ。』という事だった。



ペースを大事に。


今日は近くて声を掛けてくれる楓もいないから、掲示板を見てタイムを確認できるよう、左手に通過予定タイムを油性ペンで書いておいた。



中学生かよ、と泰知には笑われたけれど、これがあたしが光里に対してできる、他の選手に対してできる、唯一の対抗手段なのだから。