いちについて、




まださほど身体能力の差も出てこない小学校中学年のあたしには、まだ泰知に勝つだけの力はあった。


泰知が陸上クラブに入ったのは、あたしに負けたくなかったからだ。



いつかけっこをしたって、勝つのはあたし。

それを、男としてのプライドが許さなかった泰知は陸上クラブに入った。



それを知っていたから、あたしは陸上クラブには入らなかった。




泰知がどんどん速くなっていくのは目に見えてわかっていたけど、まだあたしのほうが速いのも確実だった。



きっと、あたしをクラブに誘うまで相当悩んだみたいだ。


後ろに昇馬を従えているのはきっと、最後の一押しを昇馬がしたからではないからだろう。




「泰知がそう言うなら、入ってもいいけど。」



上から目線のあたしの言葉に泰知はあからさまに眉間に皺を寄せる。




「ぜってー負けねえし。」


「もう負けてんじゃん。」



後ろからツッコミをいれた昇馬には何も言えないらしく、唇を尖らせただけだった。



昇馬も、前の年から陸上クラブに入っていた。


昇馬は足が速いと言うよりかは、走り方が綺麗。


これからどんどん伸びるんだろうなってことは、泰知のあのガムシャラな走りに比べて手に取るようにわかった。