体が軽すぎるように感じると、逆に走れないという選手もいる。
その典型的なパターンが泰知と昇馬だ。
軽いとタータンを踏み切れなくて前に進めないというふたりに変わって、あたしは軽いとベストタイムが出せる。
昨日の夜は前川先生に野菜しか食べさせてもらえなかったし、今日はちゃんとトイレにも行けた。
自己ベスト、いやそれ以上のなにかを出さなければいけない。
スタートラインにつく頃には、それまでどうしても消えてくれなかったせりかの残像は、あたしの頭の中に欠片すら残らなかった。
「On your mark」
これから走るレーンに向かって一礼をし、その場でジャンプしてからスタートの姿勢をとる。
『パンッ!!!!』
乾いた雷管の音に素早く反応し、スタートを切った。
バックストレートでは向かい風が吹いていて、インコースからスタートしたあたしにとってオープンになった後の位置取りは苦労した。
『一周目は二番手で通過しても全然いい。明日は風が強く吹くからな。』
昨日の夜、散々に怒られた後に前川先生と緻密に練った作戦を思い出す。
風を避け、体力の浪費を防ぐために順位としては三番目の位置に入った。


