「泰知がお前にとってどんだけ大事なのか、それは俺だってちゃんと分かってる。いっぱい悩めよ。」



そう言ってお兄ちゃんは立ち上がり、あたしの髪をクシャクシャにした。



「え、ちょっと最低!!」



「んなこと言うなって、早く風呂入れよ。」



笑いながら、ドアノブに手をかけて、お兄ちゃんは立ち止まった。



「俺、明後日までは確実にいるつもりだから。なんかあったら来いよ。」




「………ありがと。」



その横顔が微かに微笑んだのを、あたしは見てしまった。

ちょっと兄っぽいこと言ったらすぐこういう顔するんだから。



嫌いじゃ……ないけど。


お兄ちゃんが出ていった部屋の中。


あたしには、気になるものがひとつあった。



「泰知の手紙……。」




いつ書かれたのか、何が書かれていたのか、いつ渡すつもりだったのか。


きっと、この手紙には書かれている。


でも、封を切ってしまうことに迷いがあるのはきっと、まだ陸上をやめるかやめないかちゃんと決められていないから。



わかっているから、あたしはわざと見ないふりをして、お母さんに怒られないうちにと思い、お風呂へ向かった。