「俺も、陸上が好きだ。お前は、陸上が好きか?泰知を追いかけてたのはずっと知ってる。でも、全国で輝いていられんのは、お前が少しでも走ることが好きだって気持ちがあるからじゃないのか?……ちょっとでもそうなら、……辞めるなよ。」
最後はらしくない、振り絞るような言い方だった。
陸上が好きだから、なんて考えたことあんまり無かったかもしれない。
楽しいし面白いし、これが自分らしいっては思ってた。
でもいつも泰知を追いかけることが一番で、『好きだ』って気持ち、あたしにはきっと無かった。
「もうちょっと、考えてみる。」
あたしはこれ以上に良い答えを見つけられなかった。
「タオル、ありがと。洗って返すね。」
自分がお尻に敷いていたタオルを拾い上げ、傘を閉じて昇馬に背を向けた。
「話しならいつでも聞くから。無理すんなよ。」
あたしの背中に、昇馬の言葉が優しく降りかかる。
でも、どうすればいいかわからない。
陸上から逃げたい自分と、逃げたくない自分。
まだ、自分の中で二つの自分が葛藤している。
まだ、答えは出てこない。