昇馬はわりと、人に流されず走れる人だ。
あたしみたいに、あのライバルが前に出たからスピードを出す、とか、あいつが自己ベスト出したからあたしも出さなきゃ気が済まない、とかそういうところを見せない。
いつも淡々と自分のためになることをこなす。
沈着冷静。
まさしくその通りだと思わせるくらいの走りをする。
だから、泰知への思いを胸に秘めながらも大会には出るものだと思っていた。
正直、昇馬の言葉にあたしは驚きを隠せなかった。
「そんなに俺、なんにも考えないで走ってると思うか?」
目を見開いたあたしを見て昇馬は笑う。
「俺、どんなに頑張っても泰知には勝てないわけよ。もう、泰知に勝てることなんてないって思ってた。あいつの背中を見ることに納得してた。どんなに人が多くても、あいつを見つけられれば俺にだって表彰台に上れるチャンスはあると思ってた。」
昇馬は、今までで一度も表彰台のてっぺんに立ったことが無い。
それどころか、二番目や三番目で納得しているように見えていた。
やっぱり、泰知がいないってこういう事。
また、そう感じて寂しくなる。


