昇馬から一枚タオルを受け取り、ベンチを昇馬に習って拭く。
昇馬が持っていたタオルは、あたしと泰知が今年の夏、全国大会に出場出来なかった昇馬のために買ってきたものだった。
昇馬の、陸上を辞めるなというメッセージだということはちゃんとわかった。
辞めるなと、逃げるなと、昇馬の訴えが彼の全身から、態度から痛いくらいに伝わる。
ベンチをある程度拭いてから、そのタオルを下にしてあたし達は並んで腰を下ろす。
「この時期ってさ、本当だったら新春マラソンに向けて走ってるよな。」
何も切り出せずにいたあたしに代わり、昇馬はそんなことを言った。
いつも、雪が降り始める頃には一月に入ってすぐの新春マラソン大会に向けて練習をしている。
それは中学生の頃からで、去年も同じことをしていた。
「俺さ、今回出ないんだよな。」
「えっ………。」
横を向くと、雪空を斜め上に見上げる昇馬がそこにいた。
「俺もさ、やっぱり泰知のことがデカすぎて、まだ大会なんて出れたもんじゃねぇ。」
「昇馬………。」


