「あたしに……あ、あたしに……ゆ、夢から出ていけと」

「当たり前じゃん」

ぼくがため息まじりの返事をすると、
ピエロは、
また一段とトーンを上げて泣きだした。

「おい、もう泣くなよ。
父さんと母さんが起きるだろ」

こんなのに毎晩出て来られたら、
そりゃまいるいわな。

ぼくは、
ミカの災難に心底同情したい気分だった。

そうだ。
一番大事なことをまだ聞いてない。

こいつは本当に死神なのか?

「ちょっと聞きたいんだけど」

「もう、結構です」

やけにきっぱりとピエロが言った。
同時に、体がゆらゆらと揺れ始める。
みるまに下半身が、
壁にとけこむように消えはじめた。

「おい、待てよ。まだ聞きたいことが」

ぼくは、思わず立ち上がって、
消えていこうとするピエロに手を伸ばした。

でも相手は幽霊。

ぼくの手につかまえられるはずもなく、
白い壁の中に
あっというまにすいこまれていった。

「待てったら」

壁のむこうにあるはずの空間から、
とぎれがちの声がきこえてくる。

「あの子が……」

「ミカが何だって?」

消えいるろうそくが、
最後の炎を燃やすように、
ピエロは最後の言葉を残していった。

「あの子があたしを呼んだのに……」