「あたしも片親だけど家に帰ってこないからその寂しさ紛らわしに遊んでばっか。
怜は……」
「オレは親に捨てられて施設に入った可哀想な子ってことですよね?」
「……そう……だったの……?」
親に迷惑かけたくないって……怜くんの言葉は……
実親ではなくて……
施設の人だったのだろうか……
「優しくて真っ直ぐな杏奈といるとそのことを忘れそうになるんですよ。
親からはクリスマスに置き手紙とプレゼントだけ置かれて出ていかれて」
もしかして……寒いのが嫌いっていう理由も……。
「その時、親が置いていったのは小さいクマのキーホルダー。
それを握り締めて捨てた親を恨んで。
そんな醜いオレじゃ……杏奈は幸せになれない」
私は……知らなかったと言えばどうにでもなるんだろうけど……
どれほど残酷なことをしてしまったのか……
今更思い知った。
「だから別れた、ってことねぇ。
遊んでばっかのあたしが言えたことじゃないけど、それでいいわけ?」
「……いいんですよ」
「怜は良かったとしても。
彼女はどう思ってるのか聞いてあげたことあった?」
「……っ」
「はぁ。
そんなウジウジしてる怜なら誘う気も失せたわ。
じゃあね」
谷口先輩はそう言い残して校舎を出ていった。
「……杏奈、ごめん」
その声音は別れを切り出された時よりも、もっと切なくて……苦しそうで。
ねぇ、怜くん。
私は……ここにいる。
怜くんの隣にいるよ。
「……怜くん」
「杏奈……っ!
なんで……」
「ごめんね。
盗み聞きするつもりは無かったんだけど偶然……」
「……そっか。
どう?
これでオレに幻滅した?
誰かを恨みながら、誰かを傷付けながら生きてるオレを」
「そんなこと無い。
怜くんを大切に想う気持ちにそんなこと関係ないよ」
怜くんのその苦しみを無くすことは出来ないと思う。
それでも……解りたいと……
そう思う気持ちに偽りは無い。
「怜くん、あなたが今でも好きです。
大好きです。
この気持ちは……変わらないよ」
「……杏奈……
オレ、都合良いことばっかり言ってたけど……」
「……っそれ!」



