「……あのさぁ。その先生ってのいい加減やめねぇ?」


彼女のうなじに当てていた唇を離してそう言えば、真っ赤になった彼女が、首の後ろを押さえながら恨めしそうに俺を振り返る。


「何が言いたいんですか…」


「んー。なんかさ?先生って呼ばれると、悪いことしてる気分になるんだよな。色々。まぁ、それはそれで悪くねぇんだけど…」


言っている意味が分からないと首を傾げる彼女のうぶな瞳に、苦笑が漏れる。


まぁ、分かるわけないわな。





–––––あの離れ離れだった3年間がなかったら、今の俺達はどうなっていたんだろう?


じゃがいもなしカレーしか作れなかった翠が、ここまで手際よく料理が出来るようになった過程を、もっと近くで見ていられたのだろうか。


彼女の鎖骨辺りで光るネックレスが、こんなにも似合うようになるまでの成長を見守ることができたのだろうか。


その形のいい唇から零れる俺の名前を、もう当たり前に聞くことができてたか––––?


んなこと考えたって、らちがあかないのは分かってる。


だけど、


彼女の隣にいられなかった時間が、こんなにも惜しいものに思えるなんて……。