「川島先生!お疲れさま〜!」


「……。」



今日の最終の授業が終わって、凝り固まった首筋をポキポキと鳴らしながら数学科準備室へと戻った俺は、


今日一日の疲れがドッと押し寄せて来るような目の前の光景に、思わず大きな溜息をついた。



「また来てたの?」


「なんですかその嫌そうな顔はー!こっちは自由登校にも関わらず、先生に会いたいがために登校してきてるんですからねー!」



「ちょっとは優しくしてくださいよー!」なんていうこの子───宮原幸【みやはらさち】の前を素通りして、俺は自分のデスクへと向かう。


宮原は、3年生が自由登校になる2月まで、俺が数学を受け持っていた、いわば教え子だ。


成績はそこそこいい方だし、生活態度も決して悪く無い。


無駄なくらい元気で屈託がなく、友達付き合いに苦労している様子もない。


教師の目線からすれば、なんの心配もない普通の女子生徒。



だけど……。


俺にとっては少し厄介な生徒だ。



「ねぇ先生ー!いい加減観念して、私のこと好きになってくれませんか?もう、かれこれ3年も片想いしてるんですよ〜?」



そう。


この子はどうやら俺に気があるらしい。